ORICON NEWS Entertainment News

ORICON NEWS

“お勉強書籍”ヒットの理由

 先ごろ発表された『第10回オリコン年間“本”ランキング2017』にて、「学習参考書」「児童書」「学術書」などのアカデミックな書籍が上位にランクインする結果となった。例年通り、エッセイ、小説、自己啓発本、ダイエット本などがTOP50を占める中、『日本一楽しい漢字ドリル うんこ漢字ドリル』(文響社)は1年生向けが2位にランクイン。2~6年生向けも全てTOP50にランクインしている。3位の『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(高橋書店)は昨年の発売でランクインし、今年発売の続編も16位にランクインしている。また、お堅いイメージのある学術書でも、昨年発売の『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(中央公論新社)が、今年になって14位にランクイン。なぜ今、“お勉強書籍”が改めて注目されたのか、前述の書籍3社の担当者に話を聞いた。

【写真】「地味すぎる」「スター不在」、中吊り広告でまさかの『応仁の乱』批判!?

◆“エンターテインメント”と“教育”の融合に開拓の余地あり

 ひとりでも勉強や読書ができるようにと、親が子へ買い与える学習参考書や児童書。そのイメージを覆したのが『うんこ漢字ドリル』シリーズや『ざんねんないきもの事典』シリーズだ。『うんこ漢字ドリル』は例文に全て子どもの大好きなマジックワード“うんこ”が付く漢字ドリル。何と言っても「子どもが楽しく勉強する」と話題になった1冊だ。実際に「『今までは、子どもが勉強しているときは空気が重かったけれど、これを見て家族で爆笑している』という声もありました」と文響社・広報担当の石川文枝さんは話す。

 “エンターテインメント”と“教育”の融合に開拓の余地を感じていたという同社は、今回が学習参考書へ初参入。もちろん、“うんこ”と“勉強”の組み合わせにネガティブな反応も想定したそうだが、しがらみなく斬新なテーマに挑戦できたのも大きいだろう。その一見相容れるテーマの融合に、DVD『人の怒らせ方』シリーズなどを手掛ける映像ディレクター・脚本家の古屋雄作氏を迎え入れ、「うんこと勉強を組み合わせたら勉強が楽しくなるのでは?」と、古屋氏の企画『うんこ川柳』を元にアイディアが広がった。石川さんは「もしかしたら怒られるかも…というテーマだったにも関わらず『うちの子が勉強してます!』という感謝の声までいただけて、日本は思ったよりも窮屈な国ではないんだな、と感じました」と、ヒットの喜びを表現している。

 また、『ざんねんないきもの事典』は、動物のどこか“ざんねん”な生態をイラストや吹き出しを使いシンプルに、そしてシュールに面白おかしく紹介している。決して動物をバカにするわけではなく、根底にあるのは “ちょっと残念な部分があっても、一生懸命生きている動物の愛しさ”だ。それは、人との関わりにおいても言えることであり、生物の知識としてだけでなく、子どもの頃から得ておきたい感覚でもある。当初は、小学3~4年生の男の子をメインターゲットとして書店の児童書コーナーで展開されていたが、そのようなコンセプトの奥深さでじわじわと幅広い世代が手に取るようになった。高橋書店・広告・広報部の赤尾有香さんも、その実感を話してくれた。「話題書のコーナーでも展開されるようになり、その結果、おばあちゃんが孫のために買ったのに、『自分で楽しんで読んでしまった』といった声が多く寄せられています。世代を問わず「動物」という共通の話題が盛り上がるようです」。

 そして、児童書として発売された『ざんねんないきもの事典』は池袋サンシャイン水族館から声がかかり、『ざんねんないきもの展』(2017年11月10日~2018年4月8日)としてコラボレーションするまでに。本から飛び出した“ざんねんないきもの”が実際に動く姿を見てみたいと、土日には待ち時間ができるほどの盛況ぶりだ。

◆“知っているようで知らない”応仁の乱、丁寧に掘り下げ大人の知識欲を刺激

 一方、お堅いイメージのある学術書の分野でも、異例の14位にランクインした『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』がある。応仁の乱と聞いて「学校で習った」記憶はあるが「どんな戦だったのか」までは覚えていないという声は多い。また、メジャーな題材でありながら刊行されることが稀だったこともあり、そんな潜在的なニーズに目を付けた。

 中央公論新社・編集担当の並木光晴さんは「いつか扱ってみたいテーマとは考えていました」と話すが、今回の企画は著者の呉座勇一氏による発案で実現に至っている。と言うのも「応仁の乱というややこしいテーマを明快にさばいてくれるのは、呉座さんをおいて無いとも感じていました。まさに渡りに舟でした」(並木さん)と言うほど、とっつきにくい題材。呉座氏はそれを、簡略化せずにあえて綿密に組み立てた。そして、大乱の舞台である京都ではなく、奈良の僧侶からの視点で描くという斬新かつ客観的なコンセプトに。予備知識はあるものの今まで全容を掴む手段がなかった歴史好きがこぞって手に取り、高評価へと至った。
「『今回は呉座さんを全面的に信じよう。思うままに書いてもらおう』と腹を決めました。迷った末の決断は、結果として間違っていなかったようです」(並木さん)。

 また、本書がヒットした理由のひとつとして印象的なコピーも挙げられる。「英雄なき時代の『リアル』」「地味すぎる大乱」「スター不在」「勝者無し」など、学術書としては珍しく挑発的であり拍子抜けしてしまう言葉が目を引く。宣伝部の東山健さんは「呉座先生自身が本書冒頭で、“人気がない”、“大名たちがなんのために戦ったのか見えてこない”、“劇的で華々しいところがない”、“ただただ不毛で不条理”と説明されており、宣伝部の中でその部分を宣伝文句に使用したら面白いだろう! と、編集担当経由で呉座先生を説得しました」と、経緯を話す。この、安易に“泥沼な状況”が浮かぶコピー、どの時代においても思い当たる節があるものばかりではないだろうか。“政治や職場…利権が絡む場所で「応仁の乱」は起こりうるのでは?”そんな親近感でも興味がわくはずだ。

◆“お勉強書籍”ヒットで“家族の会話”増加にも一役

 学習参考書『うんこ漢字ドリル』と児童書『ざんねんないきもの事典』のどちらにも共通しているのは、子どもに限らず大人も“純粋に楽しめる”こと、そして“家族の会話”に一役買っているという点だ。『うんこ漢字ドリル』のヒットの背景について、石川さんは「大人に言えることですが、疲れているときに読むと思わず笑ってしまう例文ばかり。ふっと力が抜けて平和な気分になるという副次的な効果もあったのかもしれません」と話す。また、子どもが自ら楽しく勉強をする姿というのは、親からしてもどうにかして見てみたいものだ。「『勉強しなさい』と言われる子どももしんどいですが、『勉強しなさい』と言う大人もしんどいですよね」(石川さん)

 また、赤尾さんは今年の傾向について「今年は特に、子どもだけではなく、大人も読んで楽しめる本が多くヒットしているようです。大人にとっても、今まで知っていた知識を別の角度から見てみると全く新しい発見があり、家族の中でこういった児童書が会話のツールとなっています」と分析する。コミュニケーションの手段が増える一方で、子どもとの会話に悩む家庭は少なくない。そんな時代に、勉強と会話が両立できるコンテンツがウケるのは必然とも言えるだろう。そこに目を付けたことが大きな勝因となった。

 そして、“今まで知っていた知識を別の角度から見てみる”という点は、学術書『応仁の乱』でも同様に言える。歴史好きには各々好きな時代や英雄がいる中で、今までぼんやりと知っていた程度の知識に新たな視点で追究するコンセプトが幅広い層に響いた。「やはり日本人は歴史好きが多いというところが背景にありますが、『応仁の乱』はほとんど類書がなく、誰しも知ってはいるが内容をしっかりと語ることが出来ないこのテーマでした。それを、呉座先生が丹念にごまかすことなく取り組んだというところが多くの歴史クラスタに受けいれられたのでしょう」(並木さん)

 アプローチは三者三様でありつつもこの“お勉強書籍”に共通して言えることは、身近な存在に今までになかった視点が加えられ、大人の“楽しい”や“興味”を刺激した部分にある。学習参考書や児童書といった子どもにしか向けられていなかったジャンルで大人を巻き込んで一緒に楽しめる例も、専門知識を極めたい一部の読者に向けられていた学術書で知識欲が刺激され多くの歴史好きが手にした例も、本が売れないと叫ばれる時代に新たな風を吹かせたはずだ。

(提供:オリコン)
2017/12/28 08:40 配信

年間ランキング14位にランクイン『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一(中央公論新社)
年間ランキング14位にランクイン『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一(中央公論新社)