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『パンク侍』1社製作のメリット

 現在公開中の映画『パンク侍、斬られて候』。「映像化不可能」といわれた原作を石井岳龍監督が手掛け、全員主役級の役者が出演するということでこの夏注目されている作品だ。しかし、別の視点で注目したいのが、本作品はdTVを運営するエイベックス通信放送が1社で制作しているという点だ。現在の映画界は出資を募る“製作委員会方式”が主流の中、なぜエイベックスが映画製作に踏み出したのか。オリジナルコンテンツ制作への想いや、その背景、回収の見込みなどを本作のプロデューサーであるエイベックス通信放送・伊藤和宏氏に話を聞いた。そこには、“映像配信戦国時代”の現代ならではの新たな製作手法があった。

【写真】綾野剛、北川景子ら豪華キャスト、全員主役級の『パンク侍』出演者

■1社制作の背景、“メリットだらけ”のからくりとは? 

――これだけの大規模な映画作品が、なぜ1社製作になったのでしょうか。出資者を集める製作委員会方式は考えに無かったのでしょうか?
【伊藤P】考えなかったわけではありません。劇場の大きなスクリーンに耐えうる映画クオリティーにするには、配信よりも費用がかかるという事実が出てきました。その分のお金を委員会方式で他社に出してもらうことも考えましたが、その分はコントロールできなくなります。権利も切り売りしなくてはいけない。そもそも、100%コントロールするためにオリジナルコンテンツを作ってきたわけですから、やっぱり自社IP(知的財産)として展開しよう判断になりました。

――元々はdTVのオリジナルコンテンツを映画に方向転換したそうですね。「映画化することのメリット」は、どういう点でしょうか?
【伊藤P】1つは、映画にすることで“外貨”を獲得できます。配信事業者は、会員様からいただいたお金で運営しています。映画化となれば、そこにプラスで興行収入が生まれるわけです。映画ビジネスの中では、最初に興業収入があって、その後にパッケージ商品があって、最後に配信があります。僕ら配信事業者は通常だと1番最後に、映画を2次コンテンツとして買って配信しています。最初から自分達で作ってヒットさせられたら大きなメリットになります。

――映画化することで、新たな経路での利益ができるわけですね。
【伊藤P】そうです。もうひとつのメリットは“話題”を作れること。僕ら(dTV)はクローズメディアなので、世の中に知ってもらうためには極端な話、スポットCMを打つしかない。ただ、映画となればメディアが取り上げてくれますし、賞を獲るっていうこともあるかもしれません。副次的メリットがすごくあるんです。

■興行収入が“1円”も入らなかったとしても、赤字にはならない

――邦画の製作費のベースは2.5億円と言われていますが、『パンク侍~』の製作費は?
【伊藤P】公表はできないのですが、2億以上はかかっています。平均の倍以上はかけている形ですが、10億という超大作とまではいかない額でしょうか。

――大きな額だと思いますが、リスク回避の方法や回収の見込みなど独自の仕掛けがあるのでしょうか?
【伊藤P】新しい仕掛けは、実はありません。費用面でいうとリスクはあまりないんです。dTVは会員収入で運営しており、その中のやりくりで『パンク侍』ができています。会員様の500円が積み重なってできた映画と言えると思います。極論ですが興行収入が1円も入らなくても会社が傾くようなリスクはない状態ですね。ただ、年がら年中これをやっているわけにもいかないし、この勝負を毎回かけられるものでもありません。

――つまり、会員収入が10あったとして、これまでは10個のオリジナル作品を作っていたところ、「今回は4を映画に充てましょう」というような考えでしょうか?
【伊藤P】そうですね。ただ、ちょっと違うのは、ヒット作品は他社より早く独占配信したいので、お金を積んで、配信事業者同士でヒット映画の取り合いになるわけですね。その点、自社制作ですから『パンク侍』は当然dTVで配信します。映画がヒットしたら、本来後で2次コンテンツを買う分の費用はかからないし、興行収入で2億円利益が出たなら、結果として2億円分の製作費が圧縮できる。

dTVのオリジナルコンテンツはパッケージ(DVDなど映像作品)も販売します。その収益や、海外販売や、レンタルショップでの展開、テレビ局やCS放送で番組販売もあります。劇場公開をしていることでさらなる広がりが期待できつつ、すごくリスクヘッジの仕掛けができています。これらは1社単独製作だからこそできることですよね。製作委員会方式ですと、どんどん権利が分散していくから難しいと思います。

■チャレンジングな企画は、製作委員会方式には不向き

――実際大手の映画会社が継続している製作委員会方式とは異なる制作手法になりました。1社製作と製作委員会方式の利点についての見解はいかがですか?
【伊藤P】良い面と悪い面、表裏一体だと思います。1社製作ということは、コントロールする人が1人。製作委員会方式ですと、社をまたいで分業ができます。これが実は心的負担でいうとすごく楽なんですよ。例えば、キャスティング担当、収支面を見る担当、製作面を見るプロデューサーがいたり…とね。今回は1社なので“大変”でした。

――これまで続いてきた製作委員会方式では、制作~宣伝~公開~パッケージ化と、“流れ”ができているメリットはありますよね。
【伊藤P】そうですね、流れに乗る分には委員会の方が断然やりやすいですよね。誤解を恐れずに言えば、ヒットが予測できるものに関しては、委員会方式の方が良いことは間違いないです。ただそれを今視聴者が求めているかというのは、また別の話だとは思います。視聴者は無難に面白いものを求めているわけではないと思うんです。原作が何万部売れているからと言って映画が面白いかどうかははっきり言って関係ない。それは出資者側の問題です。利益もリスクも分配する制作委員会のシステムの中では“冒険”ははなかなかできないんじゃないでしょうか。我々は、お金のリスクがないのであれば冒険(チャレンジ)しようという判断で今回は委員会を組まなかったという結果ですね。

――製作委員会方式だとチャレンジングな作品は出資を集めづらいという側面もあるかもしれないですね。最後に、1社制作の意義を改めてお聞かせください。
【伊藤P】これまで、“一番後ろ”だった配信業者が一番最初の興行を抑えることができること。しかもそこで1社制作で作ったIP(知的財産)を元に、2次コンテンツ、パッケージ、番組販売などで価値を生むものになれば、もっと企画の自由度・幅が広がって、映像の作り方が変わるはずです。

 配信事業者でもこんな挑戦ができるなら、「配信で僕らもやってみよう」とクリエイターたちが集まってくれるかもしれない。そういったミッション、現代の社会的意義もある作品だと思っています。手前みそですが、これはすごくチャレンジングな取り組みで、よくこんなバカなことをやっているなと自分でも思いますね(笑)。「dTVの作るものって面白いよね」という声が上がったりすればそれだけでも嬉しいです。結果どうなるのか、皆さんぜひ映画を見ていただいて判断してもらいたいですね。

(提供:オリコン)
2018/7/1 08:40 配信

映画『パンク侍、斬られて候』製作について”赤字にならない仕組み”を語った、エイベックス通信放送・伊藤和宏氏 (C)oricon ME inc.
映画『パンク侍、斬られて候』製作について”赤字にならない仕組み”を語った、エイベックス通信放送・伊藤和宏氏 (C)oricon ME inc.